Transparent lie

……って嘘だとわかった先日の話。

ロッカーで帰り支度している俺に、話しかけてくる暇人がいた。

「…栄人さんってさぁ〜、好きな子いるぅ？」

『茶髪』（仮名）である。
このクソガ…もとい若者は、ホントに俺が疲れてる時に
より一層疲れる話題を提供してきやがる。

「…なんで？」
といった俺の声がものすごく低かったことを誰が責められようか。
いや誰も責められまい。（反語）

茶髪は俺の声のトーンなどお構いなしで続ける。
「いやぁ〜最近ちょっと気になる子とかできちゃったりしてですねぇ〜」

「そっか。それはよかったね。…じゃぁ!!」
と俺は話題をぶった切ってドアノブに手をかけようとしたが…

「つ〜め〜た〜い〜」と茶髪の呪詛が引き留める。

煩い!!何が悲しくてお前の甘酸っぱい話につきあわねばならんのだ。
そもそも、そんな相談を俺に持ちかけるのが間違いだ。

お前、俺が今から帰るのは誰もいないアパートだぞ。
つーかここ２〜３カ月ほど、俺以外の人間が入っていない部屋だぞ。
（…年末は確か姉ちゃんがきたからな。）

そこんとこ考慮した上でその話題をあえて俺に振ってきたのだとしたら
俺はお前に慰謝料を要求する。（心理的苦痛的な意味で）

と思ったが、当然ながら俺は大人なのでそんなことは言えるはずもなく
大人らしく笑ってやんわりとお茶を濁した。

俺：「相談されても困るよｗ俺、モテる人間じゃないもん。」
茶髪：「そ〜だけどぉ〜」

…オイ。肯定すんな。この野郎。

俺の額の青筋を知ってか知らずか茶髪はフォローだか
なんだかわかんないことを言い始める。

茶髪：「でもぉ〜栄人さんってぇ　割と人あたりイイッつーかぁ〜　
　　　　当たり障りないっつーかぁ〜　可もなく不可もないっつーかぁ〜
　　　　人から嫌われなそうな感じがするからぁ〜　
　　　　そういうのどうすりゃいいのかなぁ〜と思って」

…………………よし。わかった。
お前、敬語とかもういいから死んでくれ。
お前が俺を嫌いじゃなくても俺はお前が嫌いだ。大嫌いだ。

一気にめんどくささが倍増したので
さらっととりあえずなんか言ってさっさと帰宅するのが一番だ。
と俺の精神衛生管理局が結論付けた。

よし適当なアドバイスをして帰ることするぞっと

俺：「わかんないけど、相手褒めれば？褒められて悪い気する人いないだろぉ？」

…っていうのは、ある人の受け売りなんだが。もうこの際何でもいい。帰る。
そんな俺の気持ちを察してくれない茶髪はまだ続ける。

茶髪：「たとえば〜？」

…自分で考えろ。頭を使え。頭を。ってよく俺も怒られたもんだが、
先生俺、今あなたの気持ちがやっとわかりました。

俺：「何でもいいよ。気がついたこと褒めれば。そのストラップいいですねとか
　　　その服似合いますねとか、髪の色いい色ですねとか・・・」

メガネ：「いい尻ですねとか？」

…さらにめんどくさいのがロッカー室に入ってきた。メガネ（仮名）だ。
コイツは頭の回転が速い。速いがどうしてその方向性が間違っている。
メガネのくせに不真面目で、メガネのくせにエロい。
黒縁メガネもこんな奴にかけられるのはさぞや不本意だろう。

というか、神様は俺をどうしても家に帰したくないのか？


スライムが仲間を呼び寄せたときの画面を見る目で俺はメガネを見つめたが
やはり、メガネにも俺の思いは届かなかったようだ。

…日本人はいつから『察する』という大切な文化を忘れてしまったんだろう。

俺：「…それはセクハラだろ。」

メガネ：「はい。男女兼用で使えるセクハラ発言です。」

茶髪：「一瞬でそーゆーの思いつくってすごいっすよねぇ〜」




…俺は、久方ぶりに会話というものを放棄して、家路に向かった。
そろそろ本気でここをやめよう。と心に誓いながら。