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ヒモと呼ばないで

9年ぶりに帰ってきました。誰か助けて。

 ■ 2003/12/16 (火) 2日目


5:45 起床。
7:20 電車に乗る。
8:45 研修場所に到着
9:00 研修開始
11:45 健康診断に隣駅まで行かされる
13:00 健康診断開始
14:30 終了・解散
16:00 高田馬場で食事、古本探しの後、帰途につく

講義は相変わらず、本当にきつい。
何しろ、講師は元警察官にもかかわらず、レジュメにある刑法だの、刑事訴訟法だのに一瞬触れたかと思うと、いきなり「鬼平犯科帖」だの「お江戸でござる」だのの話に飛び、それが単に脱線しているだけではなく、とてつもなくつまらないのだから手に負えない。
彼と彼の趣味に付き合える一人の研修生の乾いた笑い声のお陰で、やっと睡魔と互して闘っているという感じか。

これが後3日間も続くのかと思うと、心の底から辟易とする。
講義中、何度も今日の丘陵の様子を想像する。
もうぬかるんだ足下も乾いて、新しい落ち葉も加わっているだろうから、今頃静謐な森の中をただそれを踏みしめる音だけを感じながら歩いたり、空から不意に落ちてくる落ち葉のシャワーを浴びて顔を綻ばせている人もいるんだろうなぁ…なんて思うと、もったいなさが身に沁みてくる。

健康診断で場所を移動する時には、回りの人と話をした。
女性とも話した。
よく見ると二人ともちょっときれいだ。

一人は荻野目慶子似、もう一人もTBSの女子アナ(名前知らん)に似ている。
だからどうするわけでもないが。

彼女たちに限らず男性とも話をしたが、その内容と言えば、どこから来ているのか、電車は何線なのか、何処に配属される予定なのか、仕事の内容はどんなことをする予定なのか…など、ごくありきたりなものだが、それでも大げさに言えば、潜在的な「敵」を倒した、というくらい、相手に対する変な緊張感が取れ、体から余計な力が抜けていく。

考えてみると、妻以外の女性と話すなんて、本当に久しぶりだ。
女の人がただそこにいる、というだけで、気持ちが和らぐ。
俺も、他人に対してそんな存在でいられたらなぁ、などとよく思う。
経験上、そういう能力が高いのは圧倒的に女性の方が多いと思うけど、潜在的には男性にもそんな力はあるはずだ。

でも「ただそこにいる」という海に入るや否や、いつもあっという間に溺れてしまう男達は、すぐに救命ボートに命乞をするのが常だ。

それには「パワーゲーム」という名前が付いていたりすることも多い。

ここの男性諸子の中にもその類の人が複数いる。
上記したような何でもない話をしている時でも、いきなりそのバランスを強引に崩し、とにかく小声でボソボソと「自分の過去」についてを、話し出してくる。
相手が全然違うことを話していても、お構いなしだ。

自分がいかに大きな「ウダツ」を上げてきたのか、という話をいつまでも続けている。
さらに、彼らに共通しているのは、相手の話を聞くのがあまり上手くないということか。

不思議なのは、それで会話のラリーが成立(?)しているということだ。
ただ「言った」というだけで、お互い満足しているのか。
不思議だ。

さらに、女性と話をするときには、その傾向がさらに強まるのが彼らの可笑しいところだ。
いや、可愛いところ、と言うべきか。
彼女たちのナチュラルな明るさも、これには歯が立たないのか、気のない相づちを打つのが精一杯だ。

俺もあの位の年齢になったら、彼らにようになってしまうのだろうか。

…いやいや、何を偉そうなこと言ってるんだろうか、俺は。
彼らはこの「パワー」でここまで生き延びて、今ここにいるんじゃないか。

俺はと言えば、最初からそのゲームの敗者として無能を晒したまま、ここにお情けで入れて貰ってるようなものだ。
初日の書類作成時に「…妻の扶養になっているんですが」なんて質問したのは、俺だけだったじゃないか。

彼らこそ、今の俺を見て「俺が今のお前の年齢だった頃はもっと凄かった」「なんて情けないんだ、この男は」と思っているに違いないんだ。
何しろ高度成長もバブルも彼らが演出してきたんだ。

本音を言えば、そんなゲームに参加したくない、と言う気持ちには今も変わりはないが、だからと言って、俺が彼らにあれこれいう資格もまたない。
彼らに失礼だ。

とにかく後3日間、この気のいい人達の中にいて、ただ座っていればいいんだ。
睡魔と闘うのは正直きついが、仕方ない。

とにかく流されていればいいんだ。
俺には他にどうしようもないんだから。

思い上がるな。

このまま、このまま。



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