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ヒモと呼ばないで

9年ぶりに帰ってきました。誰か助けて。

 ■ 2003/12/05 (金) 妻の休日/ハローワーク


妻の休日。

妻「ほら、ここ置くよ。あたしはもう行くから」
俺「えっ…」
妻「だから、お金ここ置くから。ハローワーク行くんでしょ。お財布見たけど、もうお金ないじゃない。」
俺「えっ…」
妻「それ、履歴書に貼る写真代も入ってるんだからね。」
俺「…」
妻「じゃあ、あたし行くから。○○ちゃんもパパにバイバイしなさい。」
俺「どこ行くの」
妻「だから買い物。昨日言ったでしょ。」
俺「…ふーん。(聞いてない)」

こんな目覚めありか。
っていうか、人の財布の中なんか勝手に見るなよ。

もう姿の見えなくなった妻へ当てつけるように、朝食もそこそこに縁起の良くないユニクロの裏起毛ジャケットを羽織り、最寄りのハローワークに出かける。
この前の雨で汚れたままのプレーントゥが靴擦れを起こしているのか、右足の小指が少し痛い。

一通り検索するも成果はなく、「紹介状」という免罪符がないまま帰るのは嫌だなぁと思いながら二重になっている自動ドアのうちの、手前のそれを一歩踏み越えた途端、そこに何故か人だかりが。
黄色のA4求人紙がいつものように置いてあるだけなのに、今日に限って5〜6人の塊がそれに見入っている。

釣られるように手を伸ばし、その内の一枚を手に取り2、3歩も進まないうちに、いきなり条件に合う要件が目に飛び込んできた。
目の前にあるもう一枚の自動ドアが開いた瞬間に、踵を返し受付に行き、これを再検索→プリントアウトしなくてもこのまま受け付けてくれるかの確認を取り、即窓口へ向かう。

その時、さっきの塊の中から「こんなの見て出来そうなのあるのかよ!」と大声で話かけられる。
一瞬、ハローワークで顔見知りが出来るのも有りかな、というような思いで振り返るも、彼の顔を見た途端、一瞬でもそんな期待を持った自分を笑った。
いかにも自分勝手そうな顔の男が、ヘラヘラ薄ら笑いしながらこっちを見てる。
他もそいつの仲間みたいだ。
俺は目を逸らし、「ええ、まあ」とだけ答えると、今度は逆に押し黙って無表情に順番待ちをしてい列の末席に腰を下ろした。

さて、その仕事とはビジネスホテルのフロント業務。
いかにも妻が喜びそうな仕事だ。

「『英語に興味ある方』とあるが、大丈夫か」
以前、某研究所を紹介してくれたと思しき見覚えのある男性職員が、無表情で聞く。

「興味ならありますが、使えません」と、バカ正直に答える。
…黙ったまま電話する職員。

職員「先方は、日常会話くらいはできるかと聞いているが」
俺「…業務のレベルにはないと思います」

交渉の結果、履歴書を先に送り書類選考を経て、それから面接になるがそれでもいいかとのこと。
慌てて首を縦に素早く振り、めでたく「紹介状」を手にすることになる。

そしてそれを実際に受け取る時、彼と目が合った瞬間にハッとして、一つの言葉を思い出す。
それは「デジャビュ」。

あの時の某研究所の時と全く同じパターンじゃないか。
受け付けた職員も、履歴書送付から書類選考を経て、面接というパターンも。

この職員もそう感じただろうか。
いや、連日これだけ沢山の人を捌いているんだ、そんなことはなかろう。
彼にとっては、単なる仕事のひとつ。
俺はその中の一人だ。
気にすることはない。

待てよ…それなら俺も同じじゃないか。
俺のような求職者のために淡々と業務をこなす彼のように、俺は妻の…いや、義母と、それに影響される妻の求めに応じて、ここに通ってるんだ。
今日はそのうちのほんの一日。

やはり「デジャビュ」か。
いやそれだけじゃない「デジャビュ」の「ループ」だ。

ちなみにあの時の最終的な結果は「不採用」だったが。
そこまで同じように繰り返しになるんだろうか。

それとも、唯一前回との差を作ってくれた、あの男達がこの「デジャビュの連鎖」を断ち切ってくれる存在になってくれるのだろうか。

断ち切られて問題が解決する訳じゃないが。






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