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ヒモと呼ばないで

9年ぶりに帰ってきました。誰か助けて。

 ■ 2003/12/03 (水) 不採用通知/落陽


10:35頃に電話が鳴る。
こんな時間の電話はセールスしかないとタカをくくっている俺は、留守電を解除することもせず、台所の洗い物をそのまま続ける。
しかし、スピーカーの調子が悪いのか、声が小さく聞き取れないので、いつものようにゆるんでいる「はかせ鍋」の取っ手の部分のネジに、これもいつものように軽く舌打ちしてドライバーを当てながら、電話に近づく。

電話の声は予想通り、妙に丁寧で、それでいてどこか慣れていない例の口調だ。
しかし、

「…今回は残念ですが○○様のご希望に添うことが出来ません…」

この部分を聞いた途端、霊園管理会社の面接で「右」側に座り、こちらを窺いながらじっとメモをとる男の顔がはっきりと目に浮かんだ。
最後の電子音の後、念のため頭からもう一度聞き直すと、すぐ今の録音を消去し、俺は台所に戻った。

そこで思わず口をついて出た言葉が、「なんだ、勧誘じゃないのか…」ということに自分でも少し呆れる。
悔しさをごまかそうとしていたんだろうか。
よくわからない。


午後から丘陵に出かける。
昨日よりも1時間遅い出発だ。
一度袖を通した後で、フリースをオフホワイトからグレーに変えてみた。
特に理由はないが。

山は昨日よりも暗い。
しかし、紅葉はまだまだきれいだ。
とはいえ、全体に暗いためか、昨日のような気持ちで色を意識できない。

尾根道、池、獣道をいつもの2/3くらい歩いて、また再び尾根に出る頃には、もう足下がやっと見えるくらいになっていた。

少し急ぎ足で尾根道を進むと、向こうに鳩峰山が見えてきた。
オレンジの太陽と、それに照らされる「茶色ベース」の紅葉。
やはり黄色が目を引く。
やっぱり今日も来てよかったな。

…なんてことを思いながら、少し歩を進めると、そこになんとも「生命力に溢れる」赤が目に飛び込んできた。
横長のパノラマ写真のような鳩峰山をかすめるように、そしてそのかなり後方に小さくしか見えないのに、すごい存在感だ。

その「赤」とは「○|○|」とデザインされている、もう散々見飽きているはずのあの看板だ。

俺は何故か無性に腹が立ってきた。
理由はわからない。
そして大声で歌を歌い出した。

曲は「落陽(?)/吉田拓郎(?)」。
この前深夜番組で、鶴瓶とアルフィーの坂崎とイッセー緒方が歌ってたヤツの聞き囓りだ。
それもサビの部分しか知らないが、それでも構わず歌った。
っていうか歌詞なんか適当だ。
うる覚えのサビを繰り返しなんて、俺は酔っぱらいか。
ある意味、何年も酔っぱらってるようなものか。
一滴も飲めないのに。

「絞ったばかりの夕日の赤が 水平線から漏れている
苫小牧発 仙台行きフェリー
あの爺さんときたら わざわざ見送ってくれたよ…」

「土産に貰ったサイコロ二つ 手の中で振れば また振り出しに戻る旅に 日が沈んでいく」

「サイコロ転がし、有り金無くし、フーテン暮らしのあの爺さん
どこかで会おう 生きていてくれ ろくでなしの男達 
身を持ち崩しちまった男の話を聞かせてよ、サイコロ転がして」

「土産に貰ったサイコロ二つ 手の中で振れば また振り出しに戻る旅に 日が沈んでいく」

毎日ギリギリの俺を助けてくれてるはずの「赤」や「黄色」や「茶色」がこんなにでっかく目の前にあるのに、その後ろでチカチカしてるあんな「赤」の存在感に目をやるなんて。

もう里山の「黄色」なんかに目を留めるな、あっちの「赤」に行くんだ、という自分の声なんだろうか。

柄にもなくこんな歌を歌い出したのも、こんな自分の気持ちに気付いている自分を自分でごまかそうとしていたんだろうか。
よくわからない。

多分違うだろう。
考えすぎだよ。
気のせいだ。






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