爺放談

私の友人にタクシーの運転手さんがいます。

その友人は今年、長年の念願かなって個人を取得しました。

その友人とはもう長い付き合いで、幾多の試練をくぐりぬけ、ようやく個人を取得したので心から喜び合ったのです。

その友人が先月、私に会いに沖縄まで来てくれました。

その時は当然彼の苦労話で花が咲き、法人タクシーという職業の喜怒哀楽を思う存分聞かされました。

そうしたところ、実に法人タクシーという職業の不遇さが改めて分かりました。

私達はタクシーの利用を良くしますがタクシーがどの様な職業かはそれほど詳しいことは分かりません、そこでその彼から聞いたことを少し書いてみますと・・・・


会社によって多少の差はありますが運転手さんの取り分は売り上げの約６０パーセントで完全歩合、しかし一月のノルマ「現在このノルマ達成が相当困難」が達成しない場合は５０パーセント。

一日の売り上げはいったん全額会社に納金をし、その運転手の一月の売り上げ総額から運転手の取り分を振り込まれる。「だいたい現在のタクシーの一日の売り上げは東京の場合平均は４万５千円ぐらいで一日約実質２０時間労働で一月１１〜１２勤務」

乗り逃げや運賃未回収「お客の持ち金不足などにより」は、その運転手が自己負担、これが結構あるという・・・

あてがわれた車両の整備不良により故障した場合、些少の労働保障はあるがほぼ泣き寝入り。

長距離など「東京〜大阪など」は会社相談のうえ運行、しかし料金未回収の場合やはり運転手が全額負担。

乗車拒否が出来るのは泥酔者のみで、しかしその判断は曖昧。

都合のいい時は公共として扱われるが実際は一般車両扱い。「例えば時間帯指定の道路やバスレーンは走行禁止」

お客の無銭乗車はタクシーのみ法的に罰する事が出来ず、これもやはり運転手の全額負担。「これも公共でない一例」

東京と大阪のタクシーにのみ違法タクシーを取り締まる機関がありそれに睨まれると最悪タクシー業を廃止する所まで追い込まれる。「繁華街などにこの機関の人間が乗車拒否などを多数見張っている」

客によっては「東京・大阪に限る」これを逆手に取り、運転手を脅して運賃を払わない人が多数いるという。「東京・大阪のタクシー全車両にこの機関宛のはがきが設置してあり、もちろんその運転手を特定できる」

会社は自社タクシーの運転手を庇う事「客とのトラブルなど」はほぼ皆無。

つり銭はもちろん自己負担。

通勤による交通費も自己負担「それを含めてのパーセンテージらしい」仕事上の帰路高速代金は会社が認めている範囲のみ支給、しかしそれ以外は全部運転手負担。

一応タクシー業界にも労働組合があるが何の力も無い「しかし組合費は異常に高いらしい」

などなどそれ以外にも上げだすとキリが無いぐらい過酷な労働条件であるのです。

ちなみに、よくタクシー運転手のことを指す言葉で「くもすけ」と言う言葉がありますがこの言葉の所以は、昔、籠屋の仕事はテレビでは二人で担ぐシーンが多いですが実際は４人で担ぐ物で、片側を二人ずつで担ぎその足の数が片側４本で両方あわせて８本、その担いでる姿が蜘蛛に似ている事とある種の揶揄を含めた事から来ているそうです。



その私の友人は法人タクシーを約２０年勤め上げ晴れて個人を取得したのでした。

個人取得の条件は法人タクシーを最低１０年以上の経験とその１０年間無事故無違反でなければその個人の試験を受ける資格が取れません。「資格取得後、準備金３００万が必要」

彼はもともと個人になるべくタクシー業界に入りました。

１０年の経験は続ければ誰でも経験できますが問題は１０年間無事故無違反です。

これは当然ですが仕事上の違反だけでは有りません、プライベートも含まれます。

ですから１０年目に入ったときからはそれこそ車の運転には細心の注意を払っていきますが、逆にこれが悪運を招きよせることが多いのです。

彼もこの悪運に招かれた一人でした。

１０年目のある日、そこでは滅多と取締りの無いところで違反を取られたのです。

違反をするとまたさらにそれから５年の無事故無違反のペナルティを課せられます。

ほとんどのタクシー運転手がこの課題をクリヤーできず諦めていきますが彼は諦めませんでした。

しかしまたさらにそれから５年目のとき彼は貰い事故をし、またさらに５年・・・・

そしてようやく２０年の紆余曲折の時を経て、彼は待望の個人の資格を取ったのです。

ですからその喜びはもう・・・・・・

そんな彼は現在バリバリ働いて、個人での売り上げは一月１００万円を越すそうです。

法人タクシーでは考えられないほどの売り上げです。

やはり良いお客さんほど「長距離」法人には乗らず個人を選ぶそうです。

今や彼は税金のことで頭がいっぱいで、結構税務署が個人タクシーにはうるさいらしいのです。

そんな彼が沖縄に来て私に言いました。


「○○ちゃん！俺は学生の時悪さばかりしてきたよ・・・・」

「少年院に入る手前までの悪さをしてきて親に迷惑ばかりかけてきた」

「そんな俺でも諦めずにやってきたから出来たんだよ！どんな人間でも諦めずにやれば出来るんだよ・・・・・」



私はその友人が大好きで、その友人が言ったこの言葉は本当に重みがある言葉で、それは現在の私にも勇気を与えてくれる言葉でした。