一生ずっとフリーター可能なのか 第一世代は崖っぷち
バブル期に登場したフリーター。組織に縛られず自由に生きる。 それが合言葉だった。 不況で失業者があふれるいま、そのフロントランナーたちが、40歳に迫ってきた。 みずから選んだ「自由」には、求められる代償もある。 ◇ ◇ 時給900円のラーメン店員というのは「仮の姿」だ。夜8時から朝6時までの勤務を終えて眠りに落ちる間際、大塚文雄さん(38)はそう自分に語りかける。 「昔は漫画家にでもなろうかと思ってたんだけど、ちょっと無理かなと思って、いまは俳優を目指しているんです」 築30年になる東京・世田谷のアパートは家賃4万6千円。近くの首都高速道を大型トラックが走るたび、振動でかすかに揺れる。南向きの6畳間と3畳間、風呂はない。日差しの強い夏は喫茶店に避難する。 ◆幸せの青い鳥いずこ 漫画本を納めた段ボール箱20箱とともに、ビデオテープの山が部屋を占拠する。テープは10本980円。レンタルビデオ代を節約して、映画やドラマは自分で録画している。壁に渡したロープから洗濯物がぶらさがり、その下にテレビが3台並んでいる。 「2台は拾ったもの。友だちがくれた28インチの大型テレビは壊れかけているけど捨てられなくて。粗大ゴミは捨てるだけでカネ取られるでしょ」 週4日働いて、月収は約12万円。アクション教室のレッスン代に3万円払うと、あまり残らない。 そこで時々、エキストラのバイトも入れる。最近では、高橋克典主演のドラマに警官役で「出演」した。深夜零時からファミレスで待機して、撮影が終わったのは午前6時すぎ。バイト代は3千円。交通費はでなかった。 「放送されても一瞬、映るかどうかですけどね」 それでも、夢とつながっていると思えるからやめられない。 大塚さんが大学を卒業したのは、バブル経済が膨らもうとしていた1988年。ちょうど、アルバイト情報誌「フロム・エー」が、フリーアルバイターを略した造語「フリーター」という言葉を世に送り出した直後だった。いわば、フリーター第一世代にあたる。 企業に背を向け、アルバイトを転々とした。図書データ処理、土木工事、工事現場監督、スキー場のレストラン、チェーン寿司店、郵便局……。 好きなときに眠り、好きなときに起きる。そして、「本当にやりたいこと」を探す。それが自由だと思っていた。しかし、いつまでたっても「幸せの青い鳥」は手に入らない。それどころか、姿さえ見えはしない。いつまでこの生活を続けていけるのか。 そう考えるようになったのは、地下鉄の駅の階段を上り下りする足の運びが重く感じられるようになった最近のことだという。 体を壊したら一瞬にして失業者へと転落しかねない。貯金は2万円。「飢え死に」という言葉さえ頭をよぎる。アルバイトでは「失業保険」ももらえないから親元へ転がり込むしかない。そうなれば、将来、老親の介護が降りかかり、「自由」はますます遠ざかる。 ◆定義では35歳まで だからというわけでもないが、フィットネスクラブに入っている。会費の安い昼間のメンバーで、月々の負担は7500円。 「痛いけどね。まあ、シャワーも浴びられるし」 とはいえ、実際にはヨガや水泳の教室に足が向かない。 「昼すぎに起きて何か食べると、もう面倒臭くなっちゃって。体もキツい。夜8時からの仕事を思うと、疲れられないし」 40歳を前に、フリーター第一世代が思い描いた人生は軋(きし)みはじめている。 フリーターとは、厚生労働省の定義によれば、低賃金、低技能のパート労働者の200万人。 総務省の定義では、派遣社員や契約社員を含めるために417万人。 いずれも、対象は15歳から35歳未満のため、統計の網からもれた35歳以上のフリーターの実態はわからない。 リクルートワークス研究所の大久保幸夫所長はフリーターの長期化、高齢化が進んでいると指摘したうえで、「自由の代償」という言葉を口にした。 フリーターと正社員では毎年、平均100万円の収入格差が生まれる。もちろんカネがすべてではない。ただ、フリーターは毎年100万円ずつ損する計算になる、と言うこともできる。 「30歳をすぎても続けるのなら、知っておいたほうがいい数字ではないでしょうか」 フリーターという言葉は「自由」という幻想を広げすぎたのかもしれない。
投稿者 : フリーターは嫌です。 日時 : 05/03/28 08:53