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アラ還の愚行記。

Author:ポンスター ( Profile )
還暦になってからの愚行に係る備忘録

 ■ 2023/08/15 (火) 介護の新潮流「利用者が働く」デイサービスの凄み


昨日の日記の後半です。

●要介護者が働くお弁当屋兼デイサービス
JR八戸駅からほど近い街道沿いに、「無添加お弁当二重まる一番町」(以下、二重まる)はある。午前10時に店舗を訪れると、奥のカフェフロアで朝礼が始まっていた。
まずはメンバー全員で自己紹介を行った後、「ラジオ体操第1」をかけ、準備運動をする。朝礼の締めには、「朝の大笑いタイム」。皆で10秒間、ワハハと大笑いしてから仕事を始めるのが、「二重まる」の朝の日課だ。
この日は6月9日で「ロックの日」。朝の大笑いタイムでは、エルヴィス・プレスリーの曲をかけ、軽快にロックンロールを踊っていた。
何とも楽しげな職場だが、働いているメンバーは80代以上の高齢者が中心。ここ「二重まる」は、お弁当屋兼デイサービスなのである。

同施設は、県内初の“仕事に特化した共生型のデイサービス”として、2019年に開業。介護を必要とする高齢者と障がいのある若者がともに働く、全国でも珍しいスタイルの施設だ。
デイ施設でありながら、店の看板には、「デイサービス」や「介護施設」などの文字はいっさい入っていない。
外観も店内も木のぬくもりのあるナチュラルな雰囲気で、おしゃれなお弁当屋さんといった印象。奥にはカフェスペースがあり、お弁当と同じメニューをランチとして提供している(現在は事前予約制)。
「お弁当を買いに立ち寄られるお客様の中には、ここが介護施設だと気づいていない方もいらっしゃいます。何より、利用者さんたちも、誰もデイだと思っていません(笑)。働きに来ているという意識なんです」と、介護職員の中村真由美さんは話す。

●キリッと仕事モードに変わる利用者たち
利用者たちは、朝、送迎で午前10時前にお店に到着すると、体温や血圧などバイタルチェックを行い、ゆっくりとお茶を飲みながら、その日やりたい仕事を選択する。
仕事内容は、お弁当の盛り付けや値段シール貼り、洗い物や掃除、メニューボード書きなどがあり、朝礼後にそれぞれ自分の持ち場につく。
午前11時半の開店に合わせ、いそいそと準備を始めるおばあちゃんたちの表情が少しキリッと、仕事モードに切り替わった。
お客さんが店頭に現れると、いの一番に「いらっしゃいませ!」と、声が華やいでいた。
昼食の準備も大事な仕事の一つ。味噌汁づくりから、ランチの盛り付け、配膳まですべて自分たちで行っている。
午後は入浴時間があるほか、農作業に出かけたり、おやつを手作りしたりと趣味活動に励む。

とはいえ、さまざまな介護度の利用者たちが生き生きと働ける環境をつくるのは、難しさや苦労も伴うだろう。
職員の中村さんは、「もちろん大変なときもありますよ! でも、その苦労も楽しいですけれど」と、屈託ない笑顔で返す。
例えば、本人が「お弁当の盛り付けをやりたい」と希望しても、それぞれ得手不得手があったり、病気の度合いによって手先が思うように動かせなかったりする場合もある。
そこで、いきなり希望どおりに仕事を任せてしまうと、実際にできなかったときに本人が落ち込んでしまうこともあるのだ。とくにその作業が昔から得意だった人ほど、プライドややる気がくじかれてしまう。
「その場合は、お客様に販売するお弁当ではなく、自分たちが食べる昼食の盛り付けからやってもらうようにしています。まずは失敗しても大丈夫なところでチャレンジしてもらうと、ご本人も気楽にできるし、こちらも得手不得手の見極めができます。そうしてご本人の希望を尊重しながらも、適材適所に促していく配慮は欠かせません」(中村さん)

また、車椅子の利用者の場合、どうしてもできる仕事が限られてしまう。リハビリのためには、車椅子から降りて動くことも大切だが、立ちながらの作業は転倒のリスクが生じる。
「ならば、リスク自体をなくせばいい」と思いついた中村さん。床に座れば転倒しないと考え、「床拭き」の仕事をお願いしてみると、ご本人は張り切って磨いていたそうだ。
「その方は自分ができることが増えたせいか、表情も雰囲気もどんどん明るくなって、服装もおしゃれになっていきました。最初は元気がなくても、ここに通ううちに皆さん、はつらつとしてくるんです。あまりに活発に動いているので、外部から来たお客様が、介護職員と利用者さんを間違えたこともありました(笑)」(中村さん)

●重度のうつが治り一般就労に移行した人も
利用者たちが単に介護を受ける側ではなく、働き手として「与える側」になることの効果は表れてきている。
その一例が、認知症状があった高齢の利用者だ。最初に参加したときは物盗られ妄想などがあり、よそよそしい態度だったが、店頭での接客を始めて3カ月後には被害妄想がなくなり、ほかの利用者や職員も引っ張っていくリーダー的存在になった。
また、重度のうつを患い、障害認定を受けていた50代の利用者も通い始めて数年でうつが治り、一般就労に移行したケースもあった。
「後者の方は、自分よりも大変な状況にある高齢者さんが一生懸命働く姿を見て、『自分にも何かできることはある』と、希望を持てたのかもしれません」と、同施設を運営する池田介護研究所・代表取締役の池田右文さんは語る。
なぜ、このような仕事に特化したデイサービスを設立したのか。
「発端は、畑で収穫した大根を利用者さんの声で商品化したことがきっかけだった」と池田社長は話す。
同社が2014年に設立した1つ目のデイサービス、「かなえるデイサービスまる」で農作業を始めたところ、翌年に100本以上もの大根を収穫できた。すると、利用者から「こんなにたくさんの大根、食べきれないから漬物にしないか?」と提案があったのだ。
そこで昔からぬか床を持っている利用者が味付けし、絶品の漬物ができ上がると、今度はまた別の利用者がポツリと口にした。
「これ、おいしくできたから、売るべ」
この声に共感した池田さんは早速、保健所に加工業の許可を申請。真空機も調達し、漬物の商品化にこぎつけた。

●東京まで皆で売りに行こう!
2017年には、味の異なる3つの漬物と、畑で採れた大豆を使った味噌も製作。これらの自慢の品を引っさげて、「東京まで皆で売りに行こう」と六本木・アークヒルズのマルシェに出店した。名付けて「東京行商ツアー」だ。
以来、この東京への行商ツアーが毎年の恒例行事になった。
「自分たちがつくった漬物をお客様が試食して『おいしい』と喜んでくれたり、買ってくれたりするたびに、皆さん目を輝かせていました。利用者さんが誰かの支えを得ながらも、自分の力で働くことで、“生きている実感”を持てる場をつくりたい。そう考え、『二重まる』を立ち上げました」(池田さん)

オープンして4年になるが、収益の面ではまだまだ課題が残る。デイサービスとしての介護保険収入が主体であり、お弁当やカフェ、漬物販売などで得られる利益は人件費や材料費などの経費を差し引くと、残る利益はわずかだ。
介助が必要な利用者が1〜2時間程度、無理なく楽しめる形で働くことを考慮すると、現段階で支払える給金は、1回参加ごとに100円程度。毎日のように参加する人は、月2000円近くの収入になる。
少額かもしれないが、「自分には何もできない」と思っていた利用者にとって、自分の力で報酬を得ることは何にも代えがたいようだ。

利用者自身が働くデイサービスは、ここ数年で増えてきている。代表的な例では、東京・町田市にある地域密着型通所介護事業所「DAYS BLG!」や、神奈川県小田原市にある「ブルーミングラボ小田原浜町」などがある。
「ブルーミングラボ小田原浜町」では、「働レク(わくレク)」と称した有償ボランティア活動を取り入れ、企業から受託した仕事を利用者が取り組む。利用者が書いた手紙のコピーをカプセルに詰め込む「じぃじ&ばぁばの便りガチャ」の製作をするなど、ユニークな仕事も請け負う。

●要介護者のゆとり就労が国の財政に好影響
「誰かの役に立つことや、自分の活躍の場があることは人に生きがいをもたらし、元気にさせてくれます。介護が必要な方たちが毎日1、2時間程度の“ゆとり就労”ができれば、収入が得られるだけでなく、身体機能の改善向上によって医療費や介護サービスの利用料も減っていくでしょう。ひいては国の社会保障費の圧迫を防ぐことにもなります。
こうしたデイ施設をはじめ、介護が必要になる前の高齢者さんたちが地域の中で働ける場が増えれば、国の財政に好影響をもたらし、未来の子どもたちの負担軽減にもつながると思います」(池田さん)
働くデイ施設の増加は、介護する側の家族にとってもいい影響がありそうだ。自分の親世代が生き生きと働いている介護施設なら、子どもも安心して親を託すことができる。自分の仕事に邁進できるため、介護離職の防止にもつながるかもしれない。
2025年には、団塊の世代約800万人が75歳以上の後期高齢者になり、国民の約3人に1人が65歳以上、約5人に1人が75歳以上になる。
要介護者が社会とつながり、生きがいを持って働くデイサービスの形は、超高齢化によるさまざまな問題を解決するうえで、1つのカギになりそうだ。


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ポンスター 疲れました _(:3 」∠)_ (23/08/16 19:48)
記入なし 今日も長文でしたか、お疲れさまです。。。 (23/08/16 08:35)


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