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ヒモと呼ばないで

9年ぶりに帰ってきました。誰か助けて。

 ■ 2004/01/21 (水) 妻の休日/研ぎ


妻の休日。

「ちょっとそれ6枚切り?もう2枚しかないんだから、あたし食べるんだから、あなたは8枚切りのにしてよ」

珍しく気分良く起きて、テキパキと朝の支度をしつつ、トースターにパンを入れてツマミを回さんとする、まさにその瞬間、すぐ後ろからダメ出し。

…今、トースターに入れたばかりのパンを元の袋に戻せってか。

妻は言うことだけ言うと、自分の部屋に戻って行った。

本当に喉まで、いや下顎と下唇の間くらいまで大声が押し寄せたが、朝から怒鳴り合いをしたくない俺は、仕方なく昨日99円ショップで買ってきたパンの袋を八つ当たりするように横に引き裂き、たった今したばかりの動作をもう一度繰り返す。

こんな朝食有りか。

俺は確かに争いは嫌い。
どんなものにも勝つ自信がない。

しかし、だ。

一度始めたら勝つまでやる。
そして、俺は未だ妻にそんな姿を見せたことはないんだ。
多分。

それは、何を以て「勝ち」とするかを見失っているから…なんて情けない理由からだけど。

もちろん、携帯をかけてくるタイミングを直させることや、6枚切りのパンを食わせること…が「勝利」になりうるわけじゃない。

だけど、俺の勝利の一つの目安は毎日気持ちよく暮らすことだ。
だから、些末なことではあるけれども、こんな気分の悪さも減らしたい。

俺の彼女に対するアプローチがどこかズレてきているんだろうか。
少なくとも、彼女の言動のタイミングがどうも合わなかったり、それで腹を立てたりする機会が増えている結果になっているんだから、その当事者の俺がそれを誘発している可能性はあるのかもしれない。

でも本当の問題は、その前段階。
これからどう生きていくか、っていう俺には難しすぎる問題だ。
その信念をどこかに落としてしまったんだ。
だから、何をするにも、自信が持てない状態なんだ。

いや、何をするにも、は言い過ぎか…。
いや、やはり、そう言えるだろうか。
よくわからん。

とにかく付け焼き刃なナマクラ刀なんだな、俺は。

…でも、それは切れないけど、「受け」に使うにはどうにかなるんだ。
相手の刃から身を守るには役立ってる。
だからこうして、今生きていられるんだ。

果たして、研ぎ直せば、切れるようになるのか。
前は、良く切れていた…ような気もする。

気のせいか。

でも、研ぎ方なんて知らない。
砥石のある場所も。

いや、もしかして、砥石ってこれのことなんじゃないか、というあたりは付いている。
っていうか、意識しないまま、もう研ぎ始めているような気さえする。

気のせいか。

試しに何か切ってみたら分かるかも。

…何を。

ナマクラに何が切れるっていうんだ。

そんなことを考えているうちに、強敵の刃がすぐ向こうで白く光り出してる。

あと25分で、俺に向かってそれは襲いかかる。

俺は、やはり「受ける」ことしか出来ない。

あと25分。

いや、もう25分だ。


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