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ヒモと呼ばないで9年ぶりに帰ってきました。誰か助けて。 |
■ 2004/01/17 (土) ショーバン |
子供の頃、野球が好きで毎日のようにしていた。
守備の練習でゴロを捕る時には、プロ野球選手を真似て、ショートバウンドをすくい上げて捕るのが好きだった。 当時の俺にはそれが格好いいことだったんだ。 友達同士でノックをする時は、ショートバウンドを略した「ショーバン」という言葉を「守備」と「≒」にして「ショーバンする」なんて言ってた記憶もあるくらいだ。 しかし、「ちゃんとした」少年野球のクラブに入り、その捕り方をすると、「基本から外れている」ということで、ユニフォームを着たおっかない「コーチ」や「監督さん」から「前に出て、シュートバウンドになる前に体の正面で」捕るように直された。 すると、どうだ。 捕れないんだ、これが。 ショートバウンドに限らず、ゴロを捕るのはあんなに得意だったはずなのに。 そもそも、ショートバウンドを捕るのが面白いのは、「カン」で捕るからだ。 打球の勢いや角度に合わせて、体の横でグラブを思い切りよくすくい上げる時には、球なんかほとんど見てない。 見ないでも捕れる、っていうか、見ない方が捕れるんだ。 そして、捕ったときに快感がある。 その「カン」が間違っていなかった、すなわち、自分の体の智恵とでもいうものが頭で考えている世界の「前」にあり、「先」を行く実感が気持ちよさを感じられたんだ。 しかし、当時「レギュラーポジション」を本当に欲していた俺は、それを手に入れるために「快感」よりも言われるままの「基本」を身につけて、守備位置に付くようになっていた。 ゴロが来ると、どんなに強い打球でも嬉しくて思わず笑ってしまうくらいだったのが、「えっと、前に出て、腰を落として両手で捕って…」と教えられた言葉を追って体が動くような感じになってしまった。 十八番のショートバウンドは体の横ですくい上げる代わりに、いつの間にか、お気に入りのプロ選手が誰一人としてやらない捕り方、すなわち、体に当てて止め、それを拾って投げる…というスタイルになっていた。 肩は悪くなかったので、アウトは取れたため、「コーチ」は「それでいいんだ」と言っていた。 プレーをする快感は減り、俺の野球への興味は急速に衰えてきた。 しかし「チームをもう辞めようか」と思ったその時、大きな変化が起きて俺はますます野球に夢中になったんだ。 それはショートストップから、ピッチャーにポジションが変わったこと。 「自分が投げなきゃ、ゲームが始まることもない」世界が、性に合っていたんだ。 フォアボールを4回出すまでに、三振を3回取れば俺の勝ち、チームの得。 それだけじゃなく、思い切り全身全霊で勝負しても、揚げ足を取られたり、茶化されたり、小馬鹿にされない世界が、ピッチングだった。 自分の投げたボールが空を裂く音をあげながら、相手打者を仰け反らせ、バットに空を切らせ、ミットにめり込む、あの瞬間。 「ショーバン」の何倍もの強烈な快感だ。 楽しかった。 11歳にして、慢性的な筋肉痛に加え、利き腕の手首の軟骨が盛り上がってしまう程、投げまくった。 それでも何て事なかった。 本当に楽しかったんだ。 それから四半世紀以上が経った今、俺は「ショーバン」はすくい上げて捕らせろ、って心の中で思いながら「基本通りに」という周囲の声に逆らえず、ポロポロ球を落とし続けるダメ内野手だ。 でも、子供の頃と違い、もう俺には上がるマウンドがない。 「全身全霊で感じる快感」なんてものを望めば望むだけ、叶わない空しさが強くなるだけだ。 分かってる。 でも、いまさら「ショーバン」を、すくい上げて捕ってもいいよ、なんて言われても、もう「快感」を感じる、その感受性そのものがなくなっちゃってるのかも。 ショーバン?何それ。 ゴロはゴロだろ。 だったら「処理」してアウトを取ればいいんだよ。 それを3回繰り返さないとチェンジにならないんだから、しなくちゃな。 明日の守備機会は、果たして何回あるのか。 エラーはしたくない。 それだけ。 今はそれだけしか望めない。 …さぁ、しまっていこうぜ。 |
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