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ヒモと呼ばないで

9年ぶりに帰ってきました。誰か助けて。

 ■ 2004/01/15 (木) あなた


風呂に入る前に、何の気無しにMyMusicのフォルダを開いてみたら、最近ほとんど聞かなくなっている曲があることに気づいた。

それは「あなた/小坂明子」。
といっても、もう30代後半以降の人しかわからないか。

昭和48,9年頃の大ヒット曲だ。
「大ヒット曲」なんて言い方すら今はしないか。
でも、まさにこれはそういう言い方に相応しい感じがする。

昭和50年、祖母が病気で倒れ、入院した。
うちは母と祖母との3人家族だったから、祖母が家からいなくなることに強いショックを感じ、俺は本当に寂しかった。

入院して最初のお見舞いは、当時近くにいた親戚と一緒にみんなで行くことになっていた。
でも、間の悪いことに、気にはなっていたけど滅多に遊ばなかった当時の同級生がその日になって「今日遊ぼう」と言ってきた。
それで、俺は「うん」って言っちゃったんだ。

断ったってなんてことないのに。

見舞いから帰ってきた母は「お祖母ちゃんは『○○はどうしたの?何かあったの?』って何回も聞いてたよ」って言ってた。

次の日、やっと母と二人で見舞いに行った。

実際に行ってみると、病院って所がとてつもなく不気味に感じ、祖母がこんなところに一人でいるなんて考えるだけで恐くなってきた。
俺は所在なく、照れ隠しと、この恐怖をごまかそうとする虚勢で「小遣いちょうだい」って言ったんだ。

祖母は見慣れたがま口から、伊藤博文の千円札を一枚、俺に渡してくれた。
確か、ちょうど傍にいた看護婦さんか誰かに「こんなときでもこの子はお小遣いを欲しがるんだから」なんて言ってた。

でも笑ってた。
いつもの優しい顔だった。

俺は別にそんなお金なんか欲しくなかったのに。
「昨日はゴメンね」って言いに来ただけなのに。

そう言えば、もっと笑ってくれたはずなのに。

その日、この曲を聴いたことを何故か強烈に覚えている。
病院のレストランでハンバーグステーキを食べている時だったか、帰ってからのラジオだったかは定かではないが。

祖母は結局一度も家に帰ることなく、俺の誕生日の2日前に死んだ。

その間、ほぼ毎日見舞いに行ったが、それは一番大事な日に行けなかったことの埋め合わせにもならなかった気が今でもしている。

今、この曲を聴きながらこれを書いている。
あの当時と変わらなく聞くことが出来る。
何度でも、好きなだけ。

おばあちゃん、昨日はごめんね。
明日から毎日お見舞いに来るから、早く元気になってね。

でも、この言葉はもう伝わらない。
伝えるチャンスを俺が逸したから。

おばあちゃん、ごめんね。
ごめんなさい。

…もう風呂はやめた。
寝よう。




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